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岐阜地方裁判所 昭和42年(わ)65号 判決 1969年2月26日

本籍

岐阜県瑞浪市土岐町六番地の二

住居

同所同番地

会社役員

加藤孝之

大正九年一月一〇日生

被告事件名

所得税法違反

出席検察官

検事 高木重幸

主文

被告人を懲役六月及び罪金一〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、中部観光株式会社へ資金を貸付けるに当り、その利息収入に対する所得税を免れようと企て、右会社に依頼して貸付名義を丸山とか曾根或は瑞山の架空人とし、受取利息を架空人名義で銀行に預金して、これを隠匿するなどの不正な方法により、

第一、昭和三八年度の総所得金額が九、九五四、四三四円で、これに対する所得税額は三、六八二、六五〇円であるのに、昭和三九年三月一六日所轄多治見税務署長に対し、同年度の被告人の総所得金額が一八三万円にして、これに対する所得税額が四三、九五〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、同年度の所得税三、六三九、〇〇〇円を免れ、

第二、昭和三九年度の総所得金額が五、三六〇、三三二円で、これに対する所得税額は一、五一七、五八〇円であるのに、同四〇年三月一五日所轄多治見税務署長に対し、同年度の総所得金額が一、四一五、〇〇〇円にして、これに対する所得税額が一一、七五〇円である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて同年度の所得税一、五〇五、八三〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、大蔵事務官作成の写真撮影報告書(添付の所得税確定申告書の写真を含む)

一、山田泰吉の検察官に対する供述調書

一、奥山宗雄の検察官(二通)に対する供述調書及び同謄本

一、丹羽登の検察官に対する供述調書謄本

一、伴重義の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本、同人の検察官に対する供述調書及び同謄本

一、会計伝票写八冊(請求番号4 5 7 6 15 16以上第一事実6 9 16 8以上第二事実)

一、支払手形控写二冊(第二事実)

一、仮払金補助簿写(第二事実)

一、仮入金手形台帳写(請求番号1第一の事実)

一、支払手形個人別帳写(同14 第二の事実)

一、仮入金手形台帳写(同2 3)

一、十六銀行瑞浪支店長近藤薫作成の証明書写(二通)

一、十六銀行熱田支店長中村守作成の証明書写(四通、請求番号72 73 74 75)

一、加藤忠之の上申書謄本(二通)、検察官に対する供述調書及び同謄本

一、永野智の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本及び検察官に対する供述調書(二通うち2 23付供述調書添付の上申書謄本を含む。)

一、大楽忠治の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本

一、柴田昭平の大蔵事務官に対する質問てん末書謄本及び上申書謄本

一、加藤千冬の検察官に対する供述調書

一、大蔵事務官作成の調査報告書

一、被告人の検察官に対する供述調書(三通うち3 1付供述調書添付の上申書謄本三通を含む。)上申書謄本(四通請求番号59 63 64 65)及び大蔵事務官に対する質問てん末書謄本(七通)

一、被告人の当公判廷における供述

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも昭和四〇年法律三三号所得税法附則三五条により、同法による改正前の所得税法六九条一項に該当するところ、いずれも懲役と罰金を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文一〇条により、罰金刑については同法四八条二項により、それぞれ法定の加重をした刑期及び罰金額の範囲内において、被告人を懲役六月及び罰金一〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状懲役刑の執行を猶予するのが相当と認められるので、同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人の判示各所得は、被告人の営む金融業から生じた所得であるから事業所得である、と主張する。

よつて検討するに、旧所得税法(昭和四〇年法律三三号による改正前のもの)九条一項四号は「商業、工業、農業、水産業、医業、著述業、その他の事業で命令で定めるものから生ずる所得」を事業所得とし、同法施行規則七条の三・四号は、同法九条一項四号の事業所得を生ずる「事業」として、金融業を掲記している。そして同条の金融業とは、金融業務が社会生活上の地位に基き、営利を目的とし、企画的に反覆継続して逐行され、しかもそれが本人の危険と計算において独立的になされている形態をいうと解するのを相当とするところ、本件で取調べた証拠によると、被告人は、兄忠之の中部観光株式会社に対する金銭の貸付事務を処理しているうち、自らも同会社に高利で金銭を貸付けて利益を得ようと考え、自己の義弟の銀行員永野智に相談し、同人の知合であつた片岡光雄から利息月三分の約束で預つた二、〇〇〇万円を、利息月五分で中部観光に貸付けたのが始りて、昭和三三年頃から中部観光の倒産した同三九年七月までの間、同会社に対し右の二、〇〇〇万円の外、被告人等が右貸付金の利息として受取つた金銭、被告人の知人大楽忠治や外一ヶ所から預つた金銭等七口約三、三〇〇万円(昭和三八年二月末現在)を、五〇万円乃至八〇〇万円を一口とし、利息を月五分若しくは二分五厘、期間を六〇日若しくは三〇日として貸付けていたことが認められるから、被告人が営利を目的とし、反覆継続して金銭の貸付を行つていたこと弁護人所論のとおりである。しかし被告人の金銭の貸付先は、被告人と親しい奥山宗雄が常務をしていた中部観光株式会社のみであり、それ以外の者には貸付けていないし、貸付に当つては、相手方の帳簿に被告人の氏名を全く出さず、すべて架空名義を使用し、被告人のところも帳簿を備えつけて記帳する等の方法をとらず、又担保を設定する等の債権確保の手段もとつていないし、貸付資金も一部に知人の大楽忠治から預つたものがあるけれども、大部分は片岡光雄から借りた二、〇〇〇万円と、その運用利息で、他から調達したものでないことが認められる。これ等の事実やその他諸般の事情を綜合して検討すると、被告人は、奥山との特別な関係から、同人を信頼して、中部観光株式会社に二、〇〇〇万円を貸付け、利息が確実に支払われたため、そのまゝ漫然と貸付を継続していたに過ぎず被告人が事業を行う意思で、企画的に中部観光への貸付を行つていたとは認められないから、被告人の本件所得を金融業から生じた事業所得ということは困難であり、論旨指摘の通達もこの認定を左右するに足りない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 塩見秀則)

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